ベルリンの風

~山田和樹ベルリンフィルデビューコンサートから~

 2025年6月、ベルリンのフィルハーモニーにおいて山田和樹指揮によるベルリンフィル定期演奏会初日を聴いた。現地でコンサートホールの席にいると、山田さんの指揮ぶりに余裕というか、音楽作りに柔らかい間のようなものを感じた。小澤征爾さんや佐渡裕さんのように音の出やテンポ感を明確に指示するのではなく、奏でられるメロディーや楽器間の音の受け渡しを評価するように、相槌と共感を示すような指揮ぶりに見えた。

 演奏された3曲のうちサン-サーンスの交響曲「オルガン付き」が素晴らしかった。この演奏の記録として、画像や録音は記念碑的なデータとして、繰り返し見聞きされるのだろうが、コンサートホール内でのドイツ人の反応や、終演後にロービーで感想を述べ合い拍手が沸き起こる熱気は、現地にいなければ感じることはできないであろう。まして心に湧き上がる感動は、その場にいなければ、その席にいなければ感じられないのである。

 衛星中継を見て感想を述べている番組を見たが、指揮ぶりやベルリンフィルのうまさには触れていたが、コンサートの醍醐味は解説では伝わってこなかった。その場でしか感じ取れない風のようなものがあり、画像や録音では再生されないものなのだろう。まさにベルリンの風であり、ステージから巻き起こった風がコンサート会場内を至福の世界に包んだのである。(会員№45)

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